金属ガラスとは
金属ガラスは、結晶構造を持たないアモルファス金属の一種であり、ユニークな特徴をもつ新素材合金です。従来のアモルファス金属は、溶解した合金の状態から急速に冷却しないと結晶化してしまうため、薄くて小さいものしか作製できませんでした。金属ガラスは、溶解した合金の状態からゆっくりした速度で冷却しても結晶化しないで固体化することから、比較的大きなバルク状の製品が作製できるようになり、工業用途として応用範囲が大きく広がりました。
また、金属ガラスは、高強度、低ヤング率 (撓みやすい) 、精密転写性といった優れた機械的特性を有しており、耐食性にも優れています。
これらの特徴を生かし、超精密部品、外装部品、各種センサー、バネ材料、スポーツ用品、生体材料など、多岐にわたる応用が検討されています。
通常の金属と金属ガラスの原子配列の違い
金属ガラスの主な特徴 -優れた転写性-
凝固収縮がなく、非晶質(アモルファス)の状態で固化
寸法精度、金型転写性に優れる
図は金属材料の温度と体積の関係を示したものです。(赤のラインが金属ガラス、青のラインが通常の金属)
液体の状態から冷やしていくと、通常の金属は結晶化に伴う凝固収縮があり、体積が縮みます。金属ガラスは結晶化に伴う凝固収縮が原理的に存在せず、非晶質(アモルファス)の状態で固まります。
このため、金型の表面を忠実に転写し、寸法精度の高い部品が作製できます。
金属ガラスの金型転写性
金型の表面と鋳造された金属ガラス(鋳物)の表面の観察写真です。金型の加工模様を忠実に鋳物に転写しています。
放電加工を行った金型表面を転写した場合
研磨加工を行った金型表面を転写した場合
文字を入れた金型表面を転写した場合
金型の加工時のツールマークまでもが転写されています。
金属ガラスの耐食性
通常の金属は図のような結晶粒界が存在し、これを起点として腐食が進行します。金属ガラスは結晶粒界が存在せず、表面に連続的な不動態膜を形成します。このため、過酷な環境でも腐食しにくい特徴をもっています。
金属ガラスの基礎物性
項目(単位) |
Zr-BMG 物性値 組成(wt%):Zr67.02Cu25.46Ni3.92Al3.60 (at%):Zr55Cu30Al10Ni5 |
---|---|
密度 [g/cm3] | 6.8 |
引張り強さ [MPa] | 1620 |
ビッカース硬度 [Hv] | 520 |
ヤング率 [GPa] | 81 |
ポアソン比 | 0.34 |
比抵抗[μΩ・cm 80℃] | 180-210 |
磁化率 [μemu/(g・Oe) 20℃] |
1.2 - 1.5 |
融点 [℃] | 890 |
ガラス転移温度 [℃] | 410 |
熱膨張係数 [E-6/℃] | 10.9 |
熱伝導率 [W/(m・K)] | 5.5 |
比熱 [kJ/(kg・K)] | 0.33 |
金属ガラス製マイクロギヤ
ニアネットシェイプにて成形可能
金属ガラスの工程フロー
合金を溶解し、金型に注入する射出成型法により部品を作製します。
合金作製~製品まで一貫して社内の設備で作製しています。
金属ガラスの表面処理
金属ガラスは、酸化処理することで、ダークブルー色となり、表面に硬質膜が形成され、更に傷つきにくくなります。
その他、イオンプレーティング、DLCコーティングなど、素材表面への調色処理が可能です。
金属ガラスの優れた特徴
金属ガラスは、強度が高い、転写性に優れ精密成形が可能、耐食性が高い、ばね性がある などの優れた特徴があり、様々な分野での製品応用が期待されています。
高強度で耐久性に優れた極小マイクロギヤ
金属ガラスを用いることで、従来実現が不可能であった超精密で複雑形状のマイクロギヤが作製できます。
これまで一般の金属製ギヤでは、複雑形状な加工が難しくサイズに限界があり、樹脂製ギヤでは高負荷に耐えられないといった問題がありました。金属ガラスには強度の高さ、優れた転写性による精密成形、髙い耐食性という特徴があり、これらを活かすことで、高強度で耐久性にも優れたマイクロギヤを作製することができました。
これにより、金属ガラス製ギヤを内蔵した直径1.5mmのマイクロギヤードモータの開発にも成功し、マイクロスコープの中に組み込まれることで、医療現場のような正確さと極小性が求められる環境下で活躍しています。
期待されるアプリケーション
ウォッチ外装・眼鏡・アクセサリー
金属ガラスを外装用途に用いることで、強度が強く、傷のつきにくい製品が実現できます。また、過酷な環境でも腐食せず、肌の接触に対し、金属アレルギーも起こしません。
当社の金属ガラスは高級腕時計の外装部品として採用され、商品化しています。
眼鏡部品、アクセサリー
しなやかで強度の高い金属ガラスの特徴を生かし、眼鏡部品への用途が期待されています。微細な模様やロゴなどを表面に形成することでデザイン性の優れた部品が実現できます。 また、これらの特徴を生かした、指輪、アクセサリー部品への適用が期待されています。
自動車の圧力センサー
近年、自動車業界などのプロセス制御高度化に伴い、各種センサの高度化が求められています。金属ガラスは一般の金属に比べると約3倍たわみやすいという特徴を持っています。圧力センサのダイヤフラム部に金属ガラスを用いることで、ダイヤフラム部がたわみやすく、今強度で感度に優れたセンサー部材が作製できます。
半導体吸着用コレット
半導体チップ部品の極小化や実装の高速化に伴い、より高強度で微細ノズルを有する半導体吸着コレットが求められています。当社の保有する金属ガラス成形加工技術と微細穴加工技術を融合することで、微細ノズルを形成し耐摩耗性に優れた半導体チップ搬送用吸着コレットが作製できます。また、樹脂製コレットで問題となる静電気による誤動作やセラミック製コレットで問題となるチッピングについて改善できます。更に、接着剤と不要微細ノズルなど、半導体製造分野への幅広い展開が期待されています。
歯列矯正用ブラケット、生体材料、人工関節
金属ガラスを用いることで小型で高精度の歯列矯正用ブラケットが作製できます。高精度なスロット形成により、矯正ワイヤとのガタを最小限に抑え、矯正治療を容易にします。また、小型化により矯正時の患者への負担や口内の違和感を軽減できます。当社では小型で円形状の独自デザインの歯列矯正用ブラケットを開発しました。(2014年意匠登録済)また、人工骨やインプラント歯科材料などの生体材料の用途として金属ガラスの使用が検討されています。
現在、これらに用いる材料は生体適合性に優れたチタンが主流ですが、加工性が悪く、形状に制約を受けるといった問題があります。金属ガラスは高強度でしなやかな特性を有すると同時に形状の自由度も高く、チタン材の代わる次世代材料として期待されています。
音響部材
金属ガラスは振動減衰率が小さいという特徴があり、例えば金属ガラスで風鈴を作製すると美しい音色が長く続きます。
この特徴を生かし、楽器や音響機器などへの応用が期待されています。
研究開発用
新材料の基礎研究を行っている大学や研究機関、企業の研究開発部門に対し、金属ガラスの評価用材料を提供致します。
評価の目的に応じ、最適なサイズ・形状をご提案、少量からでも対応いたします。